『ルピナス探偵団の憂愁』
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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津原泰水,ルピナス探偵団シリーズ2作目。
*追記(1/25)いまさらですが,まだ書店で手にとっていない人には,ネタバレにあたるかもしれないと思い直しました。
それでもかまわないという人,読んだ人は下記へどうぞ。
オビに「さようなら摩耶」といきなり記しているので,書いてしまっていいのだろう。
物語は,前作で「美人だけど莫迦で,いつもみんなの足手まとい」だった探偵団のマドンナ摩耶の,葬儀の場面で幕を開ける。
そこから連作短編形式で,高校の卒業式まで時間を逆にたどりながら進行していく。
読んでいない人は,なんだってそんな形式でと思うだろう。私も思った。
でも,読みながら気がついた。
親しい人を亡くした人間の回想は,そういう辿り方をするものなのだ。
まず,葬儀の日の記憶。そこから順に出会いの時まで戻っていく。
そして大切なことを思い出していくのだ。
普通の物語のように,小説のように,映画のように,葬儀の日からいきなり出会いの日にとんで,そのあとは時間軸に従って普通に進んでいったりはしないのだ。
「ルピナス探偵団の憂愁」は,人間の回想のあり方に自然に沿うように構成されている。
一方で,その構成自体,物語構造自体がミステリにもなっている。
そこにいつもながらの伏線の冴えである。
第3話は,既にいないことがわかっている摩耶が,物語を締めくくる。
その台詞回しときたら,これで泣かない人間はいないだろうというくらい絶妙で,もはや反則。
そして,最終話。
卒業式の日の誓いの言葉で,第一話の最後の「なんだ,会えたんじゃん」の言葉の意味が,鮮やかにたちあがる。
私事ながら。
2年前に私は中学から大学までずっと同じ学校に通った親友を,日本に数例しかないという難病で亡くしている。
闘病生活を送っていたことはもちろん知っていたが,1年ぶりに連絡をとろうとした矢先に,訃音を受けた。
「ルピナス探偵団の憂愁」を読了し,就寝し,そして明け方に目覚めて,寝床の中で作品の場面を反芻していたその時。
親友の葬儀の日の彼の母親の悲痛,俯くと涙がぼたぼたと地面に落ちたこと,そうしたことの一切が不意に鮮やかによみがえり,そこから思い出のあれこれが次々に巻き戻されるように湧き出てきた。読書中から自分の体験との類似にうすうす気がついてはいたが,一夜明けて,完全に「ルピナス探偵団の憂愁」の読書体験と個人的体験が二重写しになってしまった。
結局そのまま1時間ほど,涙を流し続けていた。
私の体験は,個人的なものであるが,普遍的なものでもある。死による別れは,ある程度の年齢になれば,誰もが遭遇せざるをえない事柄である。
「ルピナス探偵団の憂愁」は,そこを衝く。
ライトノベル風青春ミステリと見せかけながら,実はライトノベル風青春ミステリでもあるのだけれど,生と死のあわいを凝視しつつけてきた幻想文学作家津原泰水ならではの,とんでもなく凶暴な傑作である。
追記。
『ルピナス探偵団の当惑』第一話「冷めたピザはいかが」では,犯人を最初に明らかにする倒叙の技法が用いられていた。『ルピナス探偵団の憂愁』で冒頭で摩耶の死が明かされるのは,それを意識したものでもあったかもしれない。