ユダヤ人の歴史ではなく,
イェルサレムという街に焦点をあてた通史。ヨーロッパ中世から近代における
ユダヤ人史は大胆に省略されているが,むしろそこに本書の美点がある。
イスラエル建国後の現代史では,
イスラエル側の視点からの
パレスチナ問題が紹介されている。
パレスチナ問題では日本では
パレスチナ人の苦難に同情する立場から,
パレスチナ側に立った紹介が主で,私自身も
パレスチナ側が「ひいきすじ(
佐藤優)」なのではあるが,
イスラエル側の言い分(しかも批判の対象としての
シオニズム原理主義ではない理性的な言い分)が無視され過ぎてきたのはやはり問題ではあるだろう。その意味でも貴重。
「
オシムを日本に連れてきた男」として知られる元千葉GMの祖母井氏の自伝。キャッチコピーの「
オシムが心酔した男」は,内容から「が」ではなく「に」だろうと居心地の悪さを感じるが,
オシムマニアである私にとっては,よくぞ書いてくれたという内容。祖母井氏に関してはドイツ語に堪能であることと元
大阪体育大学助教授という肩書きから,ガチガチのエリートだと思いこんでいたら,実はけっこうな苦労人だということが判明して驚いた。
アメリカで落ちこぼれの高校生たちの教育に携わることになったスポーツジャーナリストの渾身の現場レポート。
小泉政権時代にチューターズスクールを初めとする
アメリカの教育改革を日本に導入しようという議論が一時盛んだった。
その話はいったいどこに消えたと思っていたら,なんだそういうことだったのね,ということが良くわかる。
「世界史」に関する部分は,目新しい話はそれほどなく,正直期待はずれ。啓蒙
専制と絶対主義の使い分けがなってない(
ピョートル大帝を「啓蒙
専制君主の典型」はさすがにまずいでしょう)など問題もあり。が,本書のウリはタイトルの「世界史」よりも,著者が実際に原産地のペルーに出かけたり,
第二次世界大戦中にロシアやドイツでジャガイモが人々の生活をどう支えたかを,体験者に直接インタビューして聞き出したりといった「調査報道」にある。全体の半分以上がそうした「現場」からの報告であり,そこは読み応え十分。
日経ビジネスオンラインでWEB連載されていたものに加筆してこのほど出版された。1941年に中国で生まれ,戦後の混乱期を中国で過ごし,1953年に日本に帰国して物理学者となった後,中国の日本留学生支援に携わるようになった著者が,中国留学生の気質の変化と日本の
動漫(動がアニメ,漫がマンガで両者を併せた言葉)の中国での普及の関係に着目して60歳を越えて「
スラムダンク」全巻読破と「
セーラムーン」DVD鑑賞に挑んだ上で書き上げたもの。日本のアニメやマンガがどのように受容されたのかという,「作品」よりの視点を期待した人には肩すかしかもしれないし,著者の立論に反対の人もいるだろう。しかし,後書きで自ら「客観性を失わないように努力した。そのためには,徹底的に一次情報にあたった。」と記しているように,中国の大学生や政府高官に直接アクセスできるという立場を生かして得られた情報の数々は,現在の中国を知る上で極めて貴重。